税務調査の結果、多額の税金を納付することとなった場合、なかなか手許資金で完納することは難しいでしょう。
完納出来ない場合には滞納処分となり、資産や売掛債権などの差し押さえがされることになります。
不動産であれば抵当権が設定され、売値にも大きく影響する場合があります。
そこで今回は納税を急ぐべき理由と一般的な納税資金の捻出方法についてご紹介します。

納税を行わない場合の影響とデメリット
納税を行わない場合、以下のようなデメリットがあります。
・延滞税・加算税の負担
・財産差押えにより仕事を失う可能
・信用失墜(融資等が受けられなくなるなどの影響)

延滞税(国税)・延滞金(地方税等)
延滞税・延滞金は、納付期限の翌日から完納するまでの期間に応じて、未納の本税額に対して利息相当額として課される税金です。完納しない限り膨らんでいきます。
延滞税は、未納額 × 利率 × 延滞日数 ÷ 365 で算出します。
納付期限の翌日から2か月以内
「年7.3%」又は「特例基準割合+1%」のいずれか低い方の利率が適用されます(2025年は2.4%)
納付期限の翌日から2か月を超える期間
「年14.6%」又は「特例基準割合+7.3%」のいずれか低い方の利率が適用されます(2025年は8.7%)
これらの延滞税や延滞金は所得税の計算上、必要経費にも入れることが出来ません。
財産の差し押さえとその影響
財産調査で把握された財産(預貯金、給与、不動産、車など)に対して差し押さえが行われ、最終的には換価されて、滞納税金に充当されることになります。
不動産の場合には差し押さえされていることは登記簿謄本に記載されることになり、価格に影響し、安易に処分が出来なくなります。
また、売掛債権なども差し押さえの対象となります。当然取引先との信頼関係に大きな影響を与え、最悪の場合、取引継続が難しくなります。
副業をしている人であれば給与の差し押さえも検討され、勤務先にも知られることとなります。
信用の失墜 融資が受けられなくなるなどの影響
未納税額があると、納税証明が発行できないことから、様々な手続きに支障をきたします。
また、不動産が差し押さえとなった場合、登記簿謄本にも記載され、その状態は調べればわかる状態となります。新規取引先などが信用調査をした場合には真っ先に確認することでもあるため営業活動にも大きな影響が生じます。
工場や設備などが差し押さえられてしまえば、事業を停止せざるを得ない状況に陥ります。
納税資金を捻出するにはどのような方法があるのか?
上記で述べたように納税を行わずに放置してしまうと大きな影響が生じます。
そのため、可能な限り完納を目指す必要があります。
納税資金の捻出方法としては人それぞれ置かれている状況が異なるため、ご自身が当てはまるものを検討することになります。
- 家族や友人から借りる
- 金融機関等からの借入
- 保有している車や不動産を売却
- 保険の解約や契約者貸し付け
- 換価猶予による分納

親族や友人に借りる
納税資金を自己資金で用意できない場合に真っ先に検討することは「親族や知人に頼る人がいないか?」です。
上記で述べたように未納税額がある場合には延滞税等で納税額がどんどん増加していきます。
そのため、親族に一時的にでも用立ててもらえる場合には頭を下げて借りることを真っ先に検討しましょう。

運よく借りれる場合には口約束だけでなく、借用書や契約書を作成し、借入金額、返済期日、返済方法などを明記することが後のトラブル回避になります。
また親などから返済不要の多額の資金援助をしてもらった場合、贈与税の申告を行う必要が生じるため注意しましょう。
金融機関等からの借入
金融機関から融資を受けることも一案です。
ただし、納税のための借入はハードルがかなり高いです。
取引がない金融機関に申し込みをしても、相手にしてもらえない可能性が高いため、まずは事業資金の融資を受けている金融機関があれば、その金融機関に相談しましょう。
仮に融資に前向きな返答が得られた場合でも融資が実行されるまでには1~2か月ぐらい時間がかかることが予想されるため、税務調査の進捗と併せて考えておく必要があります。

また、金融機関は資金使途を非常に重視する傾向があるため、フリーローン(資金使途を問わない)を勧めてくる場合もあります。ケースによってはこのフリーローンを一時的に利用して納税資金を用意する場合もあります。
【納税のための融資を金融機関から受けられる可能性がある場合とは?】
弊所で税務調査のサポートを行い納税資金のために金融機関から融資を受けられたケースとしては以下のような特徴があります。
- 本業が上手くいており、納税資金の融資を受けた場合でも返済の目途が立つ。
- 担保となる物件を所有しており、担保余力が十分あった。
- 担当者だけでなく支店長や融資課長なども同席してもらい話を進める。
その他、実行までに相当の時間を要することにはなりますが、法人成りによるメリットが生じるようなケースでは、法人成りを行ったうえで納税証明が出ない個人ではなく法人に融資を実行してもらい、事業資金を確保したうえで余力が出た個人の事業資金を納税に充当することも一案です。
保有している車や不動産の売却
保有している資産のうち、売却できるものがある場合には売却し、その資金を納税に充てることも検討しましょう。
まとまった資金を確保できる資産として代表的なものは不動産と車です。
不動産については、自宅以外で利用していない土地等があれば、譲渡を検討します。自宅しかない場合には譲渡後の資金繰りも検討する必要があるため慎重な判断が必要です。

不動産を売却する際は資金化するまでに時間がかなりかかることから、売却した金額に基づき納税を行うことを役所の徴収担当に事前に話しておくことが重要となります。
車については、乗り換えが可能なケースや2台以上車があり、処分可能な場合に検討しましょう。
また、不動産や車を譲渡する際に注意すべきは譲渡に伴う税金です。
不動産については税金の負担が大きいことから引き渡しの時期が重要となります。不動産の引き渡し時期がいつかにより納税時期が異なってくるため、不動産屋と事前に打ち合わせをしておくことが必要となります。
車の譲渡は、生活用動産の場合には非課税となりますが、事業用車両については総合譲渡所得の対象となります。
更に消費税の課税事業者の場合、事業用車両の譲渡は課税取引にも該当することになるため、消費税の申告を行う際に漏れが生じないように注意しましょう。
不動産の譲渡に伴う税負担は多額になることもあるため、税理士が納税資金の確保も手伝ってくれるようであれば、提携している不動産会社を紹介してもらい、サポートしてもらうことを検討しても良いでしょう。
保険の解約や契約者貸し付け
積立型や貯蓄型の生命保険(終身保険・養老保険・一部の医療保険等)がある場合には「解約返戻金」を担保にした契約者貸付や保険の解約により、納税資金を確保する手も使えます。
ただし、契約者貸付は借りれる金額が解約返戻金の80~90%程度に設定されていることが多いため、契約者貸付により借りられる金額で完納が見込まれる場合は検討し、貸付の範囲で完納出来ない場合には解約を検討するとよいでしょう。

完納が出来ない場合には徴収部門が財産確認を行い、解約返戻金があるような保険契約の維持は難しくなるため、事前に解約してしまうことも検討しましょう。
また、税金の完納が出来ないような場合に、もしものことが起きてしまったときは、相続人に大きな影響が生じるため、保険会社の担当者などに協力してもらい保障が切れないようにしておくことも重要です。
換価猶予
「換価猶予」は財産を換価されることを猶予してもらい、申請者の状況に応じて「分割納付」が認められるようにする制度です。
上記のように納税資金の確保を進めてみたもののそれでも完納出来ない場合に分割納付のために換価猶予の申請を行います。
ただし、どのような場合でも認めらるわけではなく収支状況や財産資料の提出を行い、審査を経て各役所ごとに判断されます。

分納額の交渉は各役所ごとに行う必要があり、一般的には、税務署、市役所、県税事務所のそれぞれの担当者と話し合いが必要となります。
分納額を決める際のポイントとしては無理な約束はせずに、今後の事業計画書などを担当者へ提示して話し合いが出来ると納得を得やすいでしょう。
まとめ

納税資金の確保はいくつかの方法がありますが、中には急ぎで対応する必要が生じるものがあります。税務調査による税負担が多額になることが予測される場合には、税務調査の終了まで待たずに納税資金の捻出作業も税務調査対応と合わせて進めていきましょう。