建設業に関係する税務

建設業者が注意したい「人工出し」。知らなかったでは済まない重大リスク

建設業界では、自社の職人を他社の現場に送り、「1人工いくら」という日当計算で代金を受け取る取引が広く行われています。

一般に「人工出し」「人夫出し」などと呼ばれるものです。

人手が足りない現場を手伝い、余っている人員を有効活用できるため、建設業者にとっては珍しい取引ではないかもしれません。

しかし、このような取引には、労働者派遣法上の問題だけでなく、金融機関からの信用や建設業許可の取得にも影響する重大なリスクが潜んでいます。

今回は、クライアント様との打ち合わせ風景を通じて解説します。

相談者:A社長(個人事業を8年。その後法人成りをして現在1年目)

業種:建設業(内装仕上げ業)・・・まだ建設業許可は取得しておらず、今後の取得を目指しているが営業所技術者等(旧:専任技術者)の条件を満たす資格は保有していないため、10年の実務経験にて取得をしたいと考えている。

今期も残りわずかとなり、決算の数字も悪くなさそうですね。

今期は法人成りして初めて決算ですが売上も個人事業主時代よりも上がっていますし順調ですね。

お蔭様で良い決算になりそうです。来期も今期以上に仕事が増えていきそうです。

ただ、どうしても時期によって業務量に波があるため、従業員の割り振りに頭を悩ませていまして……。

同業他社から『手が空いているときに職人を貸してほしい』と言われているので、応援に行ってもらうのもアリかなと考えているのですが・・・。

なるほど。建設業界では比較的多く行われていることではありますよね。

他のお客様でも外注先の請求書などをみていると、〇〇現場。〇人工 みたいなものを見たりします。

しかし、単なる労務の提供(労働者の貸し出し)を行う場合には注意が必要です。

え? そうなんですか? 

建設業界では比較的多く行われていると思うのですが・・・。

労働者派遣法(第4条第1項第2号)により、土木、建築などの建設業務への労働者派遣は原則として禁止されています。

重要なのは、人工出しという名称だけで判断するのではなく、実際の契約内容や現場での指揮命令関係を確認するということです。

もし知らずに違法な人工出しを行ってしまった場合、事業にはどんな影響が出てしまうのでしょうか?

まず一つ目は融資への影響です。

以前、支給材を中心に工事を行っていた会社が、資金繰りのために金融機関へ融資を申し込んだことがありました。

その際、材料費が少なかったことから、金融機関から追加資料として売上の請求書の提示を求められました。

その後、融資については見送られてしまったのですが、財務内容も問題がなかったことから、担当者へ融資が見送られた理由を確認したところ、保証協会から、取引が労働者派遣法に抵触する可能性があることを懸念されたと聞きました。

もちろん、融資の審査は財務内容や事業の実態などを踏まえて総合的に判断されるため、そのことだけをもって否決となったとはいえないかも知れません。ただ、取引の内容によっては、税務や会計の問題にとどまらず、資金調達にも影響する可能性があることを知っておく必要があります。

(参考)労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律  

第五十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
一 第四条第一項又は第十五条の規定に違反した者
二 第五条第一項の許可を受けないで労働者派遣事業を行つた者
三 偽りその他不正の行為により第五条第一項の許可又は第十条第二項の規定による許可の有効期間の更新を受けた者
四 第十四条第二項の規定による処分に違反した者

「違法な人工出し」はもう一つ大きな影響が生じる場合があります。

それは、建設業許可を取得する際に必要となる証明です。

経験の証明は、証明する経験の内容や過去の許可状況などに応じて、建設業を営んでいた実態を確認するための資料が必要となります。例えば、過去の注文書や請求書、入金記録のある預金通帳などが確認資料となります。

実際に、埼玉県の建設業許可申請の手引きでは、労務の提供のみを目的とした契約(請求単位が「人工」等)の実績は、経営業務の管理責任者の経験として認められない旨が明記されています。

弊社の場合、元請から「内装仕上げ工事業」の建設業許可を早く取得して500万円以上の工事を請け負ってほしいとも言われています。また、今後は利益がより多く見込める可能性がある材工での契約も視野に入れていることから融資についても十分な注意が必要ですね。

人工出しが違法にならないようにするためにはどのようなことに注意が必要となるのでしょうか?

まずは、人工出しが適法か違法かを判断する際には、「請負契約」と「派遣」の違いを正確に理解することが必要です。

例えば、現場での作業内容や作業手順、従業員の配置、勤務時間などについて、相手先が直接指示・管理している場合には、労働者派遣と判断される可能性があります。

一方、請負業者が自ら従業員への指揮命令や労務管理を行い、自社の責任で工事を完成させるのであれば、請負契約として認められる可能性があります。

具体的には厚生労働省が「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」を定めているため参考にすると良いと思います。

ただ、一番重要なことは実態です。いくら書類を整えても偽装請負と認定されてしまう恐れもあるため注意しましょう。

まとめ

建設業界では比較的よく見られる「人工出し」「人夫出し」ですが、取引の実態によっては、労働者派遣法に抵触し、大きな問題になる可能性があります。

労働者派遣法上の問題
建設業務への労働者派遣は原則として禁止されています。契約書上は請負となっていても、実際には相手先の指揮命令のもとで働いている場合には、偽装請負と判断される可能性がある。

金融機関からの信用への影響
金融機関や信用保証協会からコンプライアンス上の問題を指摘され、融資審査に影響する可能性がある。

建設業許可への影響
建設業許可の取得に必要な実務経験を証明する際、単なる労務の提供では工事実績として認められない場合があります。請求書に「人工代」「〇人工」としか記載されていない場合には注意が必要です。

「他社もやっているから大丈夫」「今まで問題になったことがない」という考えではなく、契約内容と実際の業務の進め方が適切であるか、一度確認してみることが重要です。

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