職業柄、多くの決算書作成のお手伝いをしてきました。その中で感じていることがあります。
それは多くの経営者が「決算書の重要性」を十分に理解できていないということです。
しかし、これは経営者の身近で数字をみている我々税理士が経営者に決算書の重要性を十分理解していただけるように情報を提供していないということも原因の一つだと感じています。
税金しか興味がない税理士や会計事務所職員では「決算書の重要性」を経営者に説明することは出来ません。
我々税理士はどうしても税務申告を念頭に決算書を作成してしまいがちですが、その会社にとっての「良い決算書」になるように一緒に考えていくことが重要です。
以下では私が他の税理士事務所から移ってきた法人の社長さんと打ち合わせをした際のやり取りを再現したものです。
決算書の重要性について
相談者:A社長 創立10年
内装工事:年商1~2億円 金融機関からの融資は2千万程度 関与1年目 経理は奥さん
A社長、来月末は決算がやってきます。
そのため、本日は決算に向けて打ち合わせをしましょう。
以前の関与税理士さんとは決算前にどのようなお話しをしていましたか?
以前お願いしていた税理士さんとは決算前に打ち合わせをした記憶はないですね。
資料をもっていき数字をまとめて頂いたうえで結果報告をしてもらっていました。
結果報告についても担当の方が来ていたのでここ何年は税理士さんに会ってなかったですね。
そうでしたか。
大きな事務所だと契約時だけ代表の税理士が来て、その後は担当者しか来ないということは珍しいことではないんですよね。
本来は決算前に一度どのような決算数値になりそうか?ということは気にして打ち合わせをする必要があると思います。
そうですよね。
私も日々の業務が忙しくそれでもいいかな・・・と思ってしまっていたところもあり、税金のみ提示を受けてそのまま支払っていたような状況でした。
本来、決算についてどう向き合えば良いのでしょうか?
決算は会社の成績表と思ってください。
過去の決算書を拝見すると、金融機関が嫌う勘定科目が多くみられます。
例えば、役員貸付金、仮払金などの科目は整理出来るならしておいたほうがよいですし、会社で株式の運用を少しやっているようですが、これも本業には関係ないものですので整理が必要です。
そうなんですね。
どのような決算書にすべきなのか?ということを教えてもらったことがなかったのでこんなもんかな?というぐらいで深く考えたことがなかったです。
そうですよね。
本来は会計事務所が「どのような決算書にすべきか」ということを社長の考えを聞きながら一緒に作っていくというイメージをもっていると良いと思います。
ところでA社長。
決算書はどのような場面で必要になるかご存じですか?
このことは「決算書の重要性」を理解するのに重要なことです。
そうですね・・・・。
融資の際に提出をしました。
それと税務申告の際に添付しますね。
それ以外はあまり記憶にないなぁ・・・。
実は融資以外でも売上先や仕入先と新規に取引を開始する際など提出を求められることもあります。
比較的大きな会社であれば相手の信用情報を確認する一環として決算書一式の提出を求め、財務内容が悪い先との取引を見合わせるようなこともあります。
また仕入先などであれば財務内容が悪い会社とは掛け取引ではなく、現金取引や先にお金を入れてもらうような取引でないと契約しないとする会社もあります。
更に、公共機関の仕事を受ける際にも財務分析をされて点数を付けられ入札に関する制限を設けられたりしています。
いずれも毎年会社が作成する決算書により判断されるんです。
なるほど。
決算書により仕事が取れないなんてことあるんですね。
今までは決算書について深く考えたことがありませんでしたが非常に重要ですね。
過去あまり考えなかったことが悔やまれます。
今後はどう考えていけば良いのでしょうか?
はい。
まず知っておいてほしいこととしては決算書は最低3年間はその結果の影響を受けるということです。
融資を受ける際も1年だけではなく3年間は確認されます。
そして決算書というのは大きくわけて損益計算書と貸借対照表の2つに区分されており
損益計算書は1年間の集計。
貸借対照表は決算日だけを切り取って財務内容を見せるということを理解しておくことが重要です。
また金融機関や取引業者が重視してみているものは損益計算書ではなく、実は貸借対照表であるということも理解しておきましょう。
わかりました。
今後は決算書について真剣に考えていきたいと思います。
そうですね。
あと一か月後の決算日までにより良い決算書になるように対策を講じていきましょう。