最近、個人事業主の方からマイクロ(ミニマム)法人の質問を受けました。
マイクロ法人自体は我々士業の人間にとっては特に目新しい話ではないのですが、一般の方から質問され、マイクロ法人も知れ渡ってきたのだと少々驚きました。
そこで今回はマイクロ法人について実際の相談事例に基づいてメリットとデメリットに触れながら対話形式にしてご紹介したいと思います。
ミニマム法人の相談事例
相談者 Aさん
Aさんの状況:個人事業主・事業所得900万円(青色65万控除後)・所得控除200万円
家族構成:本人(40歳)・妻(40歳・パートで年間60万円程度の扶養範囲)・子供2人
職業:WEBデザイナー・物販業
社会保険等:国民健康保険・国民年金(本人・妻)
先日、書籍を読んでいてミニマム法人の活用というものを知って興味を持ちました。私の状況でも効果はあるのでしょうか?
個人事業と法人の二刀流ってやつですね。
Aさんは個人事業も上手くいっているので十分メリットはあると思いますよ。
マイクロ法人のメリットは一般的には以下のようなことが言われています。
①社会保険料の圧縮
②法人成りとは違い個人事業を残すため個人の青色申告特別控除も適用可能
③給与所得控除を適用可能
④法人しか使えない節税方法を利用することが出来るようになる。
毎年、国民健康保険が重いことやサラリーマンは奥さんを扶養に入れられるのに、個人事業主は扶養に入れることが出来ずに国民年金を2人分支払わなければならないことに釈然としない思いがあったんです。
そうですよね。
私も個人事業主なのでお気持ちはよーくわかります。
お話しを聞いているとマイクロ法人は良いことずくめに聞こえますが、デメリットはありますか?
当然デメリットも存在します。
以下のようなことが私はデメリットだと思っています。
①法人の申告があるため専門家報酬が発生する
②法人を運営しているだけで均等割りという税金が発生する
③マイクロ法人のスキーム自体いつまで使えるのか不明
④個人と法人の両方の経理をやる必要がある。売上・経費ともに区分けが必要。
また、マイクロ法人と個人事業の事業内容は別のものにしておいたほうが良いため業務量自体も多くなってしまうことが考えられます。
なるほど、地味に色々なデメリットがありますね。
個人事業とは別事業をマイクロ法人で経営しなければならないことも気になりますね。
自分に対する最低限の給料と社会保険ぐらいは法人の事業で稼ぐ必要が出てくるということですか。副業でその金額をどう稼ぐのかも検討しておく必要がありますね。
おっしゃるとおりです。
例えば、車の修理工場を経営している方は本業の車修理と必ずといってよいほど発生する保険代行業を分離するなんてこともやっています。
また、プログラマーと不動産投資を兼業している方が不動産投資部分だけをマイクロ法人化させるお手伝いをしたこともありますね。
ただし、業務内容的に一部だけを移すことが難しい業種もありますので注意が必要です。
そうですね。
メリットで得られる税金、社会保険料の軽減額と法人の運営費用などを比較したうえで、もう一度検討したいと思います。
相談後の検討結果
Aさんの場合、本業であるWebデザイナーと物販業という副業があったため、副業である物販業を法人で行うこととなりました。
その上で現状の負担額とマイクロ法人を設立した際の比較を行いました。
現状とマイクロ法人設立を概算比較比較
【Aさんの状況をおさらい】
個人事業主・事業所得900万円(青色65万控除後)・所得控除200万円
家族構成:本人(40歳)・妻(40歳・パートで年間60万円程度の扶養範囲)・子供2人
職業:WEBデザイナー・物販業 (個人事業800万・法人移転分100万)
社会保険等:国民健康保険・国民年金(本人・妻)
現状の負担 | マイクロ法人設立後の負担 | |
健康保険(国保・健保) | 102 | 8 |
年金(国民年金・厚生年金) | 40 | 20 |
所得税(個人)※2 | 98 | 104 |
住民税(個人)※2 | 70 | 73 |
事業税(個人) | 33 | 28 |
法人税(均等割含む) | 0 | 10 |
税理士報酬 | 0 | 15 |
概算合計 | 343 | 258 |
概算計算後の打ち合わせ
私の場合だと年間で概算85万円負担が軽くなりそうということですね。
年金も国民年金から厚生年金になり、若干受け取れる金額も増えるし、国保から健康保険に代わることにより出産手当や傷病手当などにも対応してもらえて安心ですね。
そうですね。
あとはデメリットである経理処理などの問題もありますが、税金を納付後の手取りが年間85万
もらえる仕事だと割り切って考えてみるのもありかもしれませんね。
そうですね。
これだけ負担が少なるのであれば法人の設立費用などを負担しても検討の余地は十分ありそうです。
【補足 パートをしている配偶者を社会保険の被扶養者に入れることは可能か?】
マイクロ(ミニマム)法人を作る際、奥さんがパートをしていることがよくあります。
マイクロ法人を設立する場合には、法人から自分に支払う役員報酬も5~10万程度と少額となることが多いため、奥さんのパート代と同じくらいの役員報酬となったり、場合によっては奥さんのパート代よりも低い役員報酬となってしまうこともあります。
この場合、奥さんは社会保険の扶養に入れるのか?という疑問があります。
社会保険の被扶養者要件は以下の基準があるからです。(以下は全国健康保険協会HP)
「認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である場合は被扶養者となります。
なお、上記に該当しない場合であっても、認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入を上回らない場合には、その世帯の生計の状況を果たしていると認められるときは、被扶養者となる場合があります。」
この収入についてはどこからどこまでをいうのか?という疑問について社会保険事務所に確認したところ、給与以外の事業収入も含めて良いというのが結論でした。ただし、この辺りも改正がいつされるのか不明なため慎重に判断したいところだと感じています。