不動産賃貸業・投資の税務

不動産所得の事業的規模の判定基準とは?裁決例からみる実質基準

不動産所得で事業的規模に該当すると、青色事業専従者給与の適用や青色申告特別控除額の拡大など、税負担の軽減につながるさまざまな特例を利用することができます。

そのため、不動産賃貸を行っている方であれば、できる限り事業的規模として認められる形で申告したいと考えるのは、ごく自然なことでしょう。

もっとも、事業的規模に該当するかどうかは納税者の判断だけで決まるものではありません。

一般的には「5棟10室基準」が目安とされていますが、この基準を満たさない場合であっても、賃貸経営の実態によっては事業的規模と認められる可能性があります。

そこで重要となるのが、裁決例が示す「実質基準」です。

事業的規模の判断は、賃貸経営の実態を総合的に考慮して行われるため、どのような事情が判断要素となるのかを理解しておくことが適正な申告につながります。

不動産所得が事業的規模として認められるメリットとデメリット

メリット

不動産所得が事業的規模と認められた場合には以下のようなメリットがあります。

専従者給与を経費にすることが可能

配偶者や親族が賃貸経営に専ら従事している場合、「青色事業専従者給与に関する届出」を青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した人や新たに専従者がいることとなった人は、その開業の日や専従者がいることとなった日から2月以内)に提出すれば支払った給与を必要経費にすることができます。

青色申告特別控除が65万円控除になる

複式簿記による記帳やe-Taxによる申告など一定の要件を満たすことにより家賃収入から経費を差し引いた不動産所得から65万円を差し引くことができます。

※令和8年度税制改正では、令和9年分以後の青色申告特別控除の見直しが予定されています。

資産損失を全額経費に算入させることが可能

資産損失とは、不動産所得を生ずべき業務の用に供している資産が、災害や盗難、横領などによって損害を受けた場合の損失をいいます。

事業的規模に至らない不動産所得では、その年の不動産所得の金額を超える資産損失は、その年の他の所得と損益通算することはできず、控除しきれなかった部分は切り捨てられ、翌年へ繰り越すこともできませんが、事業的規模に該当する場合には一定の要件の下で翌年以後3年間繰り越して控除することができます。

貸倒損失を経費に算入することが可能

回収不能となった家賃などの債権については、一定の要件を満たす場合には貸倒損失として必要経費に算入することができます。

ただし、不動産所得が事業的規模に至らない場合には、貸倒損失として必要経費に算入することはできません。

そのため、回収不能となった年分の不動産所得の計算上で控除することはできず、原則として、その貸倒となった家賃を収入に計上した年分の所得を修正し、所得税の更正の請求や修正申告などの手続を行うことになります。

貸倒引当金の繰り入れが可能

事業の場合には金銭債権の貸倒れ等による損失の見込額として一定の方法により計算した繰入限度額に達するまでの貸倒引当金の繰入額が必要経費に算入されます。

確定申告における延滞に係る利子の必要経費算入が可能

利子税(合法的に納付期限を延長した際にかかる利息。)を支払った場合、不動産所得に関連する部分について必要経費に算入するいことができます。なお、 期限後申告や納付遅延に対するペナルティは、必要経費には一切算入できません。

デメリット

複式簿記での記帳作業

青色申告特別控除のうち65万円の控除を受けようとする場合には、複式簿記での会計記帳を行い、貸借対照表と損益計算書を作成して確定申告を行う必要があります。

ただし、最近では会計ソフトも進化しており、通帳やクレジットカードとの連携などを行えば、昔ほど大変な作業とはなりません。

不動産所得が事業的規模になるかどうかの判断基準

所得税基本通達26-9の記載

事業的規模か否かの判断基準については5棟10室の形式基準があるため、実務においても単純に5棟10室基準だけで判断されがちです。以下では事業的規模の判断手順について確認します。

次の文章は事業的規模の判断根拠となっている所得税基本通達26-9です。

所得税基本通達26-9 建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定

建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。

(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。

(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

この通達によれば事業的規模の判定は、まず、「社会通念上事業といえるかどうか」を判断し、そのうえで5棟10室基準を満たす場合には、特段の反証がない限り、事業として取り扱われます。

社会通念上の事業とは何か?

7つの判断要素

「社会通念上の事業」であるか否かについて争われた事案について調べてみると、最終的に判断される要素としては以下の7つの要素に照らし総合的に判断がされています。

営利性・有償性利益獲得を目的としているか
②継続性・反復性継続的・反復的に賃貸しているか
③自己の危険と計算自己資金・借入・空室リスクなどを負担しているか
④労力の投入入退去管理、修繕、募集、苦情対応などに相当の労力を要しているか
⑤人的・物的設備管理体制、事務所、帳簿など事業としての設備があるか
⑥取引目的資産保有目的ではなく、賃貸経営自体を営んでいるか
⑦生活状況・職業本業として行っているか

裁決事例と判例確認

裁決事例を確認してみると上記の判定要素に従い判断がされた結果、どの要素が問題になっているかは以下の通りです。(〇や×などは個人的な判断)

平19.12.4、裁決事案(TAINSより)
【事案の概要】
請求人は、所有する建物・駐車場について、不動産所得が事業的規模に該当するかが問題となった事案
・建物は3階建で、請求人の税理士法人および同族会社2社が使用 年間950万程度 所得200~300万
・駐車場6台程度で、実際の有償貸付は2台分(月1万円)。
・新築時の借入1億1500万円 毎月の返済額70万~80程度
営利性・有償性:〇
継続性・反復性:〇
自己の危険と計算:×建物は請求人の事務所・同族会社用として建築され、借入金返済は賃料収入だけでは賄えず、賃貸先も同族会社・親族に限定され空室リスクや募集の必要もなかった。  
労力:×清掃や警備等は賃借人が負担し、賃料も自動振込で回収されていた 
人的・物的設備:〇
⑥貸付目的・利用実態:△自己や親族への貸付が中心
生活状況・職業:×不動産賃貸業を本業として生活しているのではなく、税理士業等が主要な職業・収入源 
総合判断同族会社・親族への限定的な貸付であること、事業者としてのリスク負担や管理負担が小さいことを重視し、社会通念上「事業」と認められる規模には当たらないと判断された。
平16.9.27裁決(TAINSより)
【事案の概要】
・貸付先は請求人が代表取締役を務めるF社1社
・賃料収入は年間約760~880万円
・青色事業専従者給与及び青色申告特別控除
・不動産所得以外に年間約1,100~1,300万円の給与所得等があった。
営利性・有償性:〇
継続性・反復性:〇
自己の危険と計算:×貸付先は代表を務める同族会社1社のみで、修繕・設備投資はF社主導、賃料もF社の業績を優先して決定され、他への転用も困難
労力:×
人的・物的設備:△倉庫・事務所・土地を所有していたが、貸付先はF社1社のみで、設備もF社が設置・管理するものが多く、事業規模を裏付ける事情とはならなかった。
⑥貸付目的・利用実態:△祖父の代からF社の事務所・倉庫用として貸し付けられ、相続後も継続して貸付
生活状況・職業:×給与所得等が総収入の約6割を占め、不動産賃貸業が主たる事業とはいえなかった。
総合判断:営利性や継続性は認められたものの、同族会社1社への専属的な貸付で、事業者としてのリスク負担や管理負担が乏しく、本業もF社経営であったことから、社会通念上「事業」と認められる規模ではないと判断された。
平8年7月31日裁決(TAINSより)
【事案の概要】
請求人は、1棟の店舗建物の1階部分(22.8㎡)のみを、株式会社1社に賃貸していました。
賃貸物件:1件のみ 賃借人:1社のみ 年間賃料:約1,606万円 子に青色事業専従者給与300万円を支給し、必要経費に算入。
請求人は、「賃料収入は年間1,500万円を超えており、建物の維持管理も行っているので、不動産貸付は事業的規模である」と主張したが税務署は、「貸付は社会通念上『事業』とはいえないため、青色事業専従者給与は必要経費にならない」として、更正処分を行った。
①営利性・有償性:〇 
継続性・反復性:賃貸は継続しているが、期間限定契約で長期安定性は弱い。
自己の危険と計算:△空室リスクや所有者としてのリスクはあるが、修繕の多くは賃借人負担で、経営リスクは限定的。
労力:×家賃は振込、維持管理もほとんど不要
人的・物的設備:×事務所・管理体制など事業設備も認められない。
⑥貸付目的・利用実態:×賃貸自体は行っているが、再開発までの暫定利用という性格が強く、積極的な賃貸経営とは評価されなかった。
生活状況・職業:?裁決文には本業・生活状況の認定がなく、判断材料なし。
総合判断:営利性・有償性は認められるものの、それ以外の要素では事業性を裏付ける事情に乏しい。
昭52-01-27裁決(TAINSより)
【事案の概要】
請求人は地方公務員でありながら、貸地45件、貸家2件
を賃貸して不動産所得を得ていた。
青色申告を行い、母親を青色事業専従者として給与を支払って必要経費に算入していたが、税務署は「不動産所得を生ずべき事業」ではないとして専従者給与を経費から除外し、更正処分を行った。
営利性・有償性:〇貸地45件・貸家2件から地代・家賃収入を得ており、経費を考慮した上で利益が生じるよう賃貸料を設定している。利益獲得を目的とした活動である。
継続性・反復性:〇昭和44年分以後継続して青色申告を行い、長期間にわたり賃貸契約、賃料収受、契約更新などを反復して行っている。
自己の危険と計算:〇所有不動産について固定資産税、管理費、修繕費などを負担し、賃料不払いなどのリスクも負っている。自己の責任で経営している。
労力:〇
賃料集金、賃料改定交渉、契約更新、無断増改築・転貸への対応、不払賃料の回収など、多くの管理業務を継続的に行っている。母Aも専従している。
人的・物的設備:〇現金出納帳、集金カード、資産台帳、収支集計表などを備え、毎月収支管理を行っている。事業としての管理体制がある。
⑥貸付目的・利用実態:〇単なる土地保有による値上がり期待ではなく、賃貸料の設定、契約管理、集金など積極的に賃貸経営を行っている。
生活状況・職業請求人は地方公務員であり、本業として不動産業を営んでいるわけではない。ただし、副業であっても規模・管理状況から事業性は認められる。 
総合判断:請求人は地方公務員であり、不動産貸付を本業としていない点は事業性を弱める事情である。しかし、社会通念上の判断では職業だけでなく、収益性・継続性・管理状況・労力投入などを総合的に判断するため、本件では事業規模に達していると認められる。

まとめ

不動産所得が事業的規模に該当するかどうかは、一般的に「5棟10室基準」が一つの目安とされています。

しかし、この基準はあくまで事業性を推認するための形式的な基準であり、これを満たさない場合でも直ちに事業性が否定されるわけではありません。

所得税基本通達26-9でも、賃貸料収入の状況や貸付資産の管理状況などから5棟10室基準に準ずる事情が認められる場合には、反証がない限り事業として取り扱うことが示されています。

実際の裁決例を見ても、事業的規模に該当するかどうかは、営利性・継続性・自己の危険と計算・労力の投入・人的物的設備・貸付目的・生活状況などを総合的に考慮して判断されています。

特に、同族会社への限定的な貸付や管理業務・経営リスクがほとんどないケースでは、賃貸収入が多額であっても事業性が否定される一方、多数の貸付先を管理し、継続的に賃貸経営を行っているケースでは、本業が公務員であっても事業性が認められています。

このように、不動産所得の事業的規模の判定では、物件数や収入額だけで結論が決まるものではありません。形式基準だけにとらわれることなく、実際の賃貸経営の内容や管理状況を踏まえて総合的に判断することが、適正な申告につながるでしょう。

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