不動産投資を行っている方にとって最大の経費となる減価償却費について戦略的に考えている方とそうでない方では残るキャッシュが変わってきます。
特に法人で物件を所有している方は減価償却が任意償却であるため工夫の余地が大きく、検討してもらいたい事項の一つです。
なぜ、減価償却により手残りが変わるのか?
「減価償却を戦略的に使いましょう。」と聞いたことはあるけど、実際にはどのように使えばよいのか分からないという質問をよく受けます。
そのため、ここでは大前提を理解して頂いたうえで効果を検証します。
まずは大前提。
それは税率(実効税率)が所得により異なるということです。
概ね所得金額が所得により以下のような税率になります。
0~400万円 21%
400万円~800万円 23%
800万円~ 33%
この税率差がどの程度の影響かを実際の数字を使い考えてみます。
以下のような2つのケースについての税負担を比較します。
ケース1は毎年800万円づつ10年間。合計8000万円の利益が出て場合
ケース2は毎年400万円づつ9年間、最後の年に4400万円 合計8000万円の利益が出た場合
ケース1
(400万円×21%+400万円×23%)×10年=1760万円
ケース2
(400万円×21%)×9年+(400万円×21%+400万円×23%+3600万円×33%)=2120万円
差額は2120万円-1760万円=360万円
上記2つのケースはトータルで8000万円の利益が出たことは変わらないにも関わらず360万円の税負担の差が生じます。
この税負担の差は税率の差から生じるものです。
今回は任意償却が可能な法人を前提としていますが、この考え方は実は段階税率の差が激しい個人のほうが重要だったりします。
状況により減価償却のやり方をどう考えればよいのか?
上記では単純に税金負担のみの話でしたが、実務上はもう少し考ええることが必要です。
実務上では大きく以下の3つに区分して減価償却の方向性を検討することが多いです。
- とにかく手元のキャッシュを増やしたい場合
- 毎年のキャッシュフローを安定させたい場合
- 短期的に保有物件の売却を検討している場合
以下でどのような基準で減価償却を実行していくのかを検討します。
- とにかく手元キャッシュを増やしていきたい
物件を購入する際、ほとんどのケースで金融機関からの融資に頼ることになります。その際、なんといっても重要なことは頭金です。
フルローンなどはよほど属性が高い方などでなければ難しく、物件を増やしていくためには頭金を用意する必要があります。
そのため、拡大期には手元キャッシュを厚くしておく必要が生じます。
この場合には減価償却を限度額まで行い、税負担を軽くしておく必要があります。
- 毎年のキャッシュフローを安定させたい
専業大家さんなどで拡大期を過ぎて物件数が安定してきたら、キャッシュフローを安定化させる時期に入ると思います。このような場合には融資の返済期間と合わせた形の減価償却を実施していき、毎年のキャッシュフローを安定化させる場合が多いです。
毎年のキャッシュフローを安定化させることは結果として税負担の軽減につながります。
- 短期的に保有物件の売却を検討している場合
保有物件の売却を検討している場合には、売却金額の多寡により税負担が大きく異なってきます。物件の売却額を予測し、売却により譲渡益がどの程度発生するかを検討したうえで売却までの期間に減価償却をどのように実施すればよいかを検討します。また、売却により一時的に利益が跳ね上がるときにはそれに向けた対策をとれるかも合わせて検討する必要があるでしょう。
まとめ
トータルとしての税負担の軽減を図るには利益の平準化を目指す必要があります。不動産投資は利益を読みやすい業種です。事業計画書を作成したうえ、利益の平準化を念頭に減価償却を戦略的に利用しましょう。