法人を利用した節税というと一般的には法人税と所得税の税率の差に注目される方が多いですが、財産の承継という面でもその力を発揮します。
この辺りは資産税を得意とする税理士であれば当たり前なのですが、その説明は非上場株式の評価の仕組みをしっかり理解していることが前提となるため、どうしても専門的な説明となりがちです。
ただ、この専門的な説明を突然聞いてわかる人はほとんどおらず、私自身も説明の仕方に苦慮してきました。
先日、財産の承継方法を検討しているお客様と財産をプライベートカンパニーで間接所有することについて打ち合わせをした際に専門的な説明を行うことを止めて、切り口を変えた話をしたところ、とても理解が進んだとお褒めの言葉を頂き、ふと我に返ったときの話をご紹介したいと思います。
財産の承継に関する打ち合わせ実例
相談者:A社 B社長
A社の状況:株式については父からB社長へ大半を移行済。A社の年間収入は家賃収入と管理収入が主であり、今後株価は右肩上がりに上がっていくことが予想されている。
B社長の状況:父が地主で不動産を個人で多数所有。父が高齢のため不動産の管理をすべて行っており、父の相続後は大半を自身が所有予定。
友人からは不動産収入は不労所得と思われ、羨ましいといわれているけど日々の物件管理、資金繰り管理、固定資産税、所得税、住民税の負担、更には相続税の心配とお金の悩みがつきません。
よく土地を手放せば良いと言われますが、先祖が苦労して守ってきた土地であることを小さい頃から刷り込まれているため理屈と気持ちの折り合いも付きません。
B社長のところは不動産の価値も相当な金額となるため、次世代への承継は非常に悩ましいですよね。お父様にもしものことがあった場合にはお母さまも存命ですし、ご兄弟もいるのである程度の相続税で済みますがB社長のお子さんは1人ですから次世代は大変な負担額になります。
そうなんですよね・・・・・。
父ともそのような話をしており、息子の代になる前に財産の整理を行い、方向性を示しておきたいという気持ちがあります。
どのように次世代に我が家の財産を承継していくかを考えるため、最近色々と勉強をしており、解決策の一つに法人を通じた承継に興味を持ちましたが、どう思いますか?
法人を通じた財産承継は昔からあるオーソドックスな方法として利用されています。
相続対策の一環としてA社の株式について整理をする際、B社長は贈与税の負担についてどう思われましたか?
正直、他に売却が出来ない目に見えないものに対して、なぜこんなに贈与税を支払わないといけないのかな?と思いました。
A社は不動産を少し保有しているだけの管理会社でうちの株式にそんな価値はあるの?って思っているくらいですから。
率直なお気持ちを教えて頂き有難うございます。
株価の計算について、以前は小難しい話をしすぎたと思い反省しました。
それでは、今日は細かい話を抜きにして、あえてA社の財産価値と株価について切り口を変えて一緒に考えてみましょう。
A社は、所有する物件の収入と両親が保有する物件の管理収入により、今後株価は右肩上がりになることが予想される話はご理解されていると思いますが、もし法人の株式を介さずに直接お父さんが今の法人が所有する財産を相続財産として保有していたらいくらかの評価額になるか分かりますか?
それは考えたことがありませんでした。
ちょっと想像ができませんね。
A社の場合、非上場株式としての価値は現在5千万円ですが、A社所有の財産を個人が直接相続財産として保有していたら1.5億円です。
実に70%近くも圧縮されているわけです。これは会社の状況によって圧縮具合が異なってきますが財産を承継する際に非常に重要な話になってきます。
お金や財産は置き場所によって価値が異なることを意識しておいてください。
そんなに違うんですね・・・・・。
不動産を承継する際は不動産取得税や登録免許税などの負担が非常に重いため、生前に承継することは負担感があり進みませんが、株式であれば不動産よりも手軽ですし、財産の承継ツールとして良いかも知れません。
父がその財産を直接保有している場合と株式を通じて間接保有している金額を比較として出して頂いたことで何だかしっくり来ました。
今回は保有財産をどう承継していけば良いのか改めて考え直すヒントになりました。
財産承継については悩み深いことですが、家族関係も考えながらより良い承継の方向性が構築できれば良いですね。